沖縄のジュゴンをとりまく状況に、定置網や刺し網などの漁網にかかる「混
獲」、陸での開発や汚染による影響、米軍の演習による生息地撹乱、不発弾の水中爆
破処理による影響、気候変動に伴う生態系劣化などがあることは、これまで指摘され
てきました。それに加えて辺野古での基地建設が行われれば、ジュゴンと彼らをメン
バーとするエコシステムに致命的な悪影響があることは明らかです。今回の
「種の保存法」の一部を改正する政令(案)に対する意見募集においては、ジュゴン
の生存にとって餌場の減少要因の側面より、海岸を人工的に改変する事による影響に
特にポイントをおき、以下の内容で意見を提出しましたので紹介します。






「種の保存法」の一部を改正する政令(案)に対する意見
                   2011年3月2日

氏名:鈴木雅子(北限のジュゴンを見守る会 )

意見:

絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(以下種の保存法)施行令の
一部改正にあわせ、国内希少野生動植物種に追加する種としてジュゴンを加えるべきである。

<該当箇所>

 国内希少野生動植物種に追加する種について

<意見内容>

現在、日本国内において絶滅が予想される海生哺乳類ジュゴンは、かつては琉球諸
島の沿岸のどこにでも見られ、沖縄県民に親しまれていた。ジュゴンは沖縄の先史時
代から様々に利用されてきたが、その穏やかな生態や沿岸域の生活形態により
安易に捕獲できることから乱獲の恐れも起き、琉球王朝が成立後は献上品
として厳しい規制が敷かれるなどの保護措置が講じられたと推測できる。

 過去より様々な人間活動による圧力を受けながらも、ジュゴンは奇跡的に沖縄の海
に今も生き残っている。しかし現存するジュゴンは残念ながら沖縄島北部の
やんばるの沿岸にわずかな数が生き残っていることが確認されているのみである。
 そのような危機的状況を周知しながら国のどの機関も彼らの生息環境を積極的に改
善し、彼らが自然環境の中で今後も繁殖できるような条件や措置を講じた形跡は
見当たらない。この現状を放置することは、国の怠慢であり、我が国の将来
における生物多様性を明らかに損う行為であると考え、わが国の自然環境
及び、生物多様性の保全に責任のある環境省としてなすべきことは、まず
ジュゴンを種の保存法の希少野生動植物種に指定することであり、その
持てる術の全力を投じて、即刻、保護対策を講じるべきである。

<理由>

現存するジュゴンの生息環境には様々な不安材料が山積しているが、その中でも、
生物の生存にとって欠かせない餌の供給源である海草藻場が減少している
ことは明らかであり、餌場の保全を担保すべくサンゴ礁生態系及び、浅海域、
海草藻場の保全を積極的に進めるべきである。

 昨年の夏、ジュゴンが周年確認されている沖縄島北部の海岸線を巡検したが、
沖縄島の中でも比較的に沖縄らしい原風景が残っていると言われている
やんばる地域においても自然海岸はわずかに残るだけとなってしまっている。
 研究者によると、日本で一番人工ビーチが多いのは沖縄県であり、すでに現在も
人工ビーチは40箇所を数え、今も自然海岸を破壊して造り続けられている。特に
海岸法の改正を受けた昨今の防災事業による海岸線の改変は「エコ」の名の下に
大規模な環境破壊を伴い、人間だけの快適さと安全性を追求し、本来なされる
べき自然生態系への配慮の欠落した極めて問題のある施策であると言わざるを
えない。 制度上においては「住民参加型」を謳いながら、設置された『協議会』
への地元住民の参加は限られた構成員の中で進められ、ほとんどの住民には
事業の内容を含め、その自然環境の知見等、何の情報も与えられていない現状
である。その内実は形だけの住民合意であり、言葉を持たない自然の構成員の
視点や生存は全く配慮されていない。これら「エココースト構想」における「環境
保全措置」は往々にして、サンゴ及び海草藻場の移植措置であり、移植が
サンゴ礁の保全再生に寄与するのかは十分に検討されないまま、不必要な
開発の免罪符として使われている。移植後のモニタリングやメンテナンス
にも課題が重積しており、保全措置としての本来の姿を逸脱していると言わざる
をえない。 ジュゴンの生息環境は人間活動に極めて近い沿岸であり、今後も
開発や防災事業の中でいかに生息地の保全を図っていくかは緊急かつ重大な
課題である。 それゆえに現状を放置し、今後もこのような環境改変が続き、長い
時間と歴史の中で島嶼において調和をとってきたサンゴ礁生態系の破壊が続く
なら、ジュゴンはもとより、沖縄固有の多様性に満ちた自然環境は壊滅的な
打撃を受け、永遠に取り戻すことはできなくなるであろう。

 その轍を踏まないためにも、ジュゴンを種の保存法の希少野生動植物種に指定し、
その生息地の保全への実効性のある施策をただちに講じるべきである。
                           
                              以上